●甚五右ヱ門芋とは

 「甚五右ヱ門芋」は山形県最上郡真室川町の佐藤家に室町時代から伝わる里芋で、山形県の最上伝承野菜の一つです。芋は細長い形で、加熱調理することにより独特の柔らかさと食感が生まれ、他の里芋とは一線を隔す絶品として食通を唸らせています。

◆甚五右ヱ門芋の来歴

 「甚五右ヱ門芋」は山形県最上郡真室川町の佐藤家に室町時代から品種改良されることなく、種芋の冬越し方法は門外不出、一子相伝されてきたサトイモです。現在の当主佐藤春樹氏は20代目だそうです。

 その昔にはこの芋の美味しさを知る地域の農家達も佐藤家から種芋を分けてもらい栽培していた時代もあったようですが、甚五右ヱ門芋は「土垂」の7割ほどの収量しかないことや、美味しい芋は粘土質の畑でしかできないことなど色々な要因でこの芋は栽培されなくなり、いつしか佐藤家に伝わるのみとなってしまったそうです。

甚五右ヱ門芋(じんごえもんいも)

 2009年に山形県の最上伝承野菜の一つに認定され振興の対象となっており、近年、テレビや様々な書籍、ネットなどでも良く取り上げられており、この芋の美味しさを知ったバイヤーや料理人からの引き合いが強くなっているようです。

◆甚五右ヱ門芋の特徴

 甚五右ヱ門芋は石川早生土垂などと同じ青柄種ですが、品種改良されずに500年以上この地で作り続けてこられた昔のままの品種ということもあり、そういった一般的な里芋に比べ収量が7割ほどしか採れないそうです。

 芋の形は縦長のものが多く、付け根側は細長く、その上に芽が出る部分が膨らんでいます。

甚五右ヱ門芋(じんごえもんいも)

 皮が薄く、肉質は緻密で、加熱調理するととても柔らかく、それでいて煮崩れしません。舌触りは滑らかでつきたての餅のような食感があり、一般的な里芋とは違う印象を受けるでしょう。

●甚五右ヱ門芋の美味しい食べ方と料理

◆調理のポイント

 森の家がお勧めされている甚五右ヱ門芋の最もおいしい食べ方はきぬかつぎです。後述しますが、この芋本来の持ち味が最大限に味わうことができます。

 また、甚五右ヱ門芋は煮たり焼いても美味しいのですが、その際、皮をむくことが多いです。ここでポイントは皮の剥き方で、和食などではサトイモの皮を剥く場合、六方むきにすることが多いのですが、このイモに関してはお勧めしません。非常に高価な芋なのでもったいない上、表面近くの果肉まで切り落とすことで、中のぬめり成分や旨味が溶け出してしまうからです。

 お勧めは包丁の刃先でこすり取る方法です。皮は包丁の刃をイモに対して直角に当て、刃先で表面を軽くこするだけではがれていきます。そうやって皮をむいた芋は写真のような感じになります。剥いたらすぐに水にさらしておきましょう。

甚五右ヱ門芋(じんごえもんいも)の皮をむく

 甚五右ヱ門芋は表面が緑色になっているものも見られますが、ジャガイモとは違いソラニンなどの有害な成分は含まれていないのでご安心を。

皮をむいた甚五右ヱ門芋(じんごえもんいも)

 甚五右ヱ門芋の箱の開封から皮をむく様子、それに甚五右ヱ門芋のローストを作るようすなどを動画でもご覧いただけます。YouTube動画のリンクはこのページの下段にお進みください。

◆甚五右ヱ門芋の一番お勧めの食べ方はきぬかつぎ

 小ぶりのものを選んで生産者一押しの食べ方であるキヌカツギにしてみました。

甚五右ヱ門芋(じんごえもんいも)のきぬかつぎ

 芋の真ん中あたりに一周切り込みを入れ、親芋と繋がっていた部分を少し切り落として蒸し鍋に入れ、およそ20分間蒸しあげました。

 切り込みを入れてあるのでつるっと皮がむけます。

甚五右ヱ門芋(じんごえもんいも)のきぬかつぎ

 艶々の白い可食部が顔を出します。赤柄里芋二子さといも、伊予美人などに比べ、皮と肉の間にはぬめぬめした半液状のものが少なく感じます。

 食べてみると・・・なんだこれは!? 一般的なサトイモのキヌカツギに良く感じられるヌルヌルした感じはありません。むちっとした・・いや、もちっとした食感で表面から芯まで柔らかく、舌触りはとても滑らか。そしてサトイモのぬくもりのある風味が鼻からふーっと抜けていき、旨っ!!まさに絶品です。

 皮をむいているとこんなに緑色のものも出てきました。食べてみると・・・

甚五右ヱ門芋(じんごえもんいも)のきぬかつぎ

 これは・・なんやこれ??めっちゃ旨いやん! 一般的には緑色になったものは緑化芋と呼ばれ、里芋としては品質が悪いものとされていますが、甚五右ヱ門芋に関しては当てはまらないようです。なぜなら、この後私はこういうふうに緑色になっているものを選んで食べていたからです。こうなっているものの方が食感が心地よく美味しく感じたのです。

◆甚五右ヱ門芋の芋汁 芋煮

 森の家のもう一つのお勧めは「芋煮」だったので、作ってみました。甚五右ヱ門芋は表面の皮を刃先でこするように落としてから食べやすい大きさに切っています。

甚五右ヱ門芋(じんごえもんいも)の芋汁 芋煮

 鍋に甚五右ヱ門芋と人参、手でちぎったこんにゃくをいれ、水を張り、白出汁と醤油を加えて火にかけます。

 沸騰したら弱火にし、マイタケと牛肉を加えさらに煮ます。途中アクをすくいながら、芋に串がすっと通るまで煮たらネギを加えてもうひと煮立ちさせて出来上がり。

 これがまた絶品。この甚五右ヱ門芋の食感ときたらもうたまりません。芋煮ってこんなに旨かったんだ!と感動してしまいました。やはりポイントは豚や鶏ではなく、牛肉を使う事ですね。

◆甚五右ヱ門芋の炊き込みご飯

 甚五右ヱ門芋とごぼう、人参、しいたけ、それに鶏肉で炊き込みご飯にしてみました。

甚五右ヱ門芋(じんごえもんいも)の炊き込みご飯

 芋は食べやすいように1cm足らずの輪切りにして、ご飯と一緒に炊き上げていますが、写真のように煮崩れるようなことはなく、切った形そのままです。

 でも食べてみると柔らかい餅のような感じでした。サトイモの炊き込みご飯は人生で初でしたが、これまたとても美味しいご飯になりました。

◆甚五右ヱ門芋のロースト

 洋風の料理にもということで、甚五右ヱ門芋をフライパンでローストしてみました。

 フライパンにニンニクとオリーブオイルをいれ、香が立つまで加熱し、そこに皮をむいた芋を加え、転がすように軽く炒め、蓋をして弱火でじっくりと焼きます。

 途中何度か蓋を開けて焼き色がまんべんなく付くように転がしながら、芋に串がスッととおるまで焼き上げます。

 仕上げにパセリのみじん切りとバターを加え、全体に絡めて出来上がり。

甚五右ヱ門芋(じんごえもんいも)のロースト

 味付けは今回塩胡椒だけで作りましたが、お好みで醤油を垂らしても美味しいですよ。もちっとした食感で、これはこれでとても美味しいです。

◆甚五右ヱ門芋と鶏肉、牛蒡の炊いたん 煮物

 甚五右ヱ門芋とごぼうを鶏肉と共に煮たもの。このイモはとても柔らかく煮あがるのに、不思議なくらい煮崩れしません。切った角も写真のように全く崩れず、角が立ったままです。

甚五右ヱ門芋(じんごえもんいも)と鶏肉、牛蒡の炊いたん 煮物

 何でもないこんな一品でもご飯が幸せに感じられます。

●甚五右ヱ門芋の主な産地と旬

甚五右ヱ門芋(じんごえもんいも)

◆主な産地と栽培面積

 甚五右ヱ門芋を作っているのは山形県最上郡真室川町の佐藤家(森の家)だけです。

 2022(令和4)年の時点で栽培面積は3haとなっています。

◆甚五右ヱ門芋の収穫時期と旬

 甚五右ヱ門芋の収穫は9月末ごろから始まり、霜が降る時期までとなっています。出荷は10月初旬頃からで、10月中旬に最盛期となっています。

品種 9月 10月 11月 12月
甚五右ヱ門芋                        

●動画で見る甚五右ヱ門芋と、皮の剥き方や調理例

 甚五右ヱ門芋の箱の開封から皮をむく様子、それに甚五右ヱ門芋のローストを作るようすなどを動画でもご覧ください。

< 出 典 >

※ 「伝承野菜農家 森の家」甚五右ヱ門芋に添付されていたパンフレット

※ 「甚五右ヱ門芋」森の家ホームページ

※ 「味の箱船登録食品 甚五右ヱ門芋」一般社団法人 日本スローフード協会

※ 「甚五右ヱ門芋」おいしい山形推進機構事務局

※ 「やまがた・人と環境に優しい持続可能な農業推進コンクール」山形eco農家 山形県農林水産部